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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)2777号 判決 1985年8月27日

控訴人 石井幸治 外1名

被控訴人 石井勇 外2名

主文

一  原判決中、被控訴人石井勇勝訴の部分を取り消す。

同被控訴人の控訴人石井幸治に対する請求を棄却する。

二  控訴人石井幸治のその余の控訴及び当審における新請求並びに控訴人野崎キクエの控訴をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人石井三郎及び同鹿島ヤスに生じた分は、控訴人石井幸治及び同野崎キクエの負担とし、その余の各当事者に生じた分は、それぞれ当該当事者の負担とする。

事実

第一当事者の求める判決

一  控訴人ら

1  原判決中、控訴人ら敗訴の部分を取り消す。

2  被控訴人石井勇(以下「被控訴人勇」という。)の控訴人石井幸治(以下「控訴人幸治」という。)に対する請求を棄却する。

3  (一) 主位的請求

(1) 控訴人幸治と被控訴人らとの間において、別紙第二物件目録記載の各土地が控訴人幸治の所有であることを確認する。(当審における新請求)

(2) 控訴人らと被控訴人らとの間において、訴外亡石井庫造(以下「庫造」という。)が昭和42年4月19日横浜地方法務局所属公証人田中盈作成同年第1437号遺言公正証書をもつてなした遺言(以下「本件公正証書遺言」という。)は無効であることを確認する。

(3) 控訴人らと被控訴人鹿島ヤス(以下「被控訴人鹿島」という。)との間において、同被控訴人が本件公正証書遺言につきその執行の権利及び義務を有しないことを確認する。

(二) 予備的請求

(1) 右(一)の主位的請求がいずれも認められない場合

控訴人らと被控訴人らとの間において、別紙第三物件目録記載の各土地が控訴人らの共有であることを確認する。

(2) 右(一)の主位的請求のうち(1)の請求のみが認められ、同(2)(3)の請求が認められない場合(控訴人野崎キクエ(以下「控訴人キクエ」という。)のみの予備的請求)

控訴人キクエと被控訴人らとの間において、別紙第四物件目録記載の各土地が同控訴人の所有であることを確認する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

1  控訴人らの本件各控訴及び当審における新請求をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二当事者の主張

一  被控訴人勇の控訴人幸治に対する請求について

1被控訴人勇の請求原因

(一)  被控訴人勇は庫造の二男、控訴人幸治はその三男、被控訴人石井三郎(以下「被控訴人三郎」という。)はその四男、控訴人キクエはその長女、被控訴人鹿島はその妹であるが、庫造は昭和42年5月24日死亡し、被控訴人鹿島を除くその余の右4名が庫造を相続した。

(二)  別紙第一物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)は、もと庫造の所有であつた。

(三)  庫造は、昭和42年4月19日、本件公正証書遺言をもつて、本件建物を被控訴人勇に取得させる旨指定していたので、同被控訴人が相続により本件建物の所有権を取得した。

(四)  ところが、控訴人幸治は、昭和41年9月7日、庫造から本件建物の贈与を受けたとして、同建物につき横浜地方法務局戸塚出張所同日受付第25934号をもつて自己のため所有権移転登記をしている。

(五)  よつて、被控訴人勇は、控訴人幸治に対し、本件建物の所有権に基づき、右所有権移転登記の抹消登記手続を求める(なお、右請求は、被控訴人勇の共同相続人としての共有持分に基づく更正登記手続を請求する趣旨を含むものではない。)。

2 請求原因に対する控訴人幸治の認否

(一)  請求原因(一)、(二)及び(四)の各事実は認める。

(二)  同(三)の事実中、庫造が昭和42年4月19日本件公正証書遺言をもつて本件建物を被控訴人勇に取得させる旨の指定をしていたことは認めるが、その余は争う。右遺言は、後記のとおり無効なものである。

3 控訴人幸治の抗弁

(一)  庫造は、昭和41年9月7日、本件建物を控訴人幸治に贈与した。すなわち、庫造は、その長男が生後間もなく死亡し、二男である被控訴人勇には精神的疾患があつたため、三男である控訴人幸治が妻フジエと結婚してからは、同控訴人を自分の跡継ぎとし、同控訴人に老後の面倒を見てもらおうと考えていた。庫造は、昭和41年5月13日、膵臓腫瘍のため入院したが、その際、同居していた控訴人幸治に不動産の登記済権利証、銀行預金通帳、印鑑等を預けて後事を託し、更に、同年9月7日、本件建物を同控訴人に贈与したものである。

(二)  のみならず、本件公正証書遺言は、次の理由により無効である。

(1) 被控訴人らは、昭和42年2月10日ころ、庫造の死期が近いことを知り、遺産の分配で有利な地位を得るため、入院中の庫造を無理に退院させて被控訴人勇方に連れ込み、暴行、脅迫の手段で庫造と控訴人幸治夫婦が会うのを妨げ、庫造に同控訴人のいわれのない悪口を吹き込むとともに、威圧を加え、庫造が自由な意思を表明することができないようにしたうえで、本件公正証書遺言をなさしめたものである。したがつて、右遺言は、庫造の真意によらないものとして当然無効である。

(2) 仮に右遺言が当然無効でないとしても、右(1)に述べたとおり、被控訴人らの詐欺、強迫によつてなされたものであるから、控訴人らは、庫造の相続人として、本訴において、右遺言を取り消した(被控訴人勇、同三郎は前記詐欺、強迫を行つた当事者であるから、控訴人らのみで相続人としての取消権を行使しうるものと解すべきである。)

4 右抗弁に対する被控訴人勇の認否

いずれも否認する。

二  控訴人らの被控訴人らに対する請求について

1  控訴人らの主位的請求原因

(一) (控訴人幸治の所有権確認請求)

(1) 別紙第二物件目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)は、もと庫造の所有であつた。

(2) 控訴人幸治は、庫造方で同人や被控訴人勇と同居していたが、昭和41年7月ころ、被控訴人勇が結婚することになつたので、他に建物を建てて別居するため、そのころ、庫造から本件土地の贈与を受けた。

(3) しかるに、被控訴人らは、本件土地が庫造の遺産に含まれるものであるとして、控訴人幸治の所有権を争つている。

(4) よつて、控訴人幸治は、被控訴人らとの間において、本件土地が同控訴人の所有であることの確認を求める。

(二) (控訴人らの遺言無効確認請求等)

(1) 本件公正証書遺言には、庫造の遺産を次のとおり分割取得することを指定する旨記載されており、かつ、右遺言の執行者を被控訴人鹿島及び第一審被告石井與七とする旨の指定がなされている。

(イ) 控訴人キクエの取得分

横浜市戸塚区下倉田町花立1868番畑766.94平方メートル(7畝22歩)のうち西側の165.28平方メートル(50坪)

(ロ) 控訴人幸治の取得分

横浜市戸塚区下倉田町雪下1693番田68平方メートル(2畝5歩外畦畔3歩)のうち別紙図面中の縦横線を施した部分(別紙遺産目録第三3(A)の土地を指すものである)

右土地の上にある木造瓦葺平家建居宅1棟床面積105.78平方メートル(32坪)

(ハ) 被控訴人三郎の取得分

控訴人幸治取得分の部に記載の田68平方メートルのうち別紙図面中の斜線を施した部分(別紙遺産目録第三3(B)の土地を指すものである)

横浜市戸塚区下倉田町字原1501番田333.88平方メートル(3畝11歩)

(ニ) 被控訴人勇の取得分

控訴人キクエ、同幸治及び被控訴人三郎の取得分を除く全遺産

なお、本件建物は現在控訴人幸治の所有名義となつているが、真実は庫造の所有であつて、被控訴人勇の取得分に含まれるものとする。

(2) しかしながら、本件公正証書遺言は、前記一3(二)のとおり無効なものである。

(3) ところが、被控訴人らは、右遺言が有効であると主張している。

(4) よつて、控訴人らは、被控訴人らとの間において、本件公正証書遺言が無効であることの確認並びに被控訴人鹿島が右遺言を執行する権利及び義務を有しないことの確認を求める。

2  控訴人らの予備的請求原因(控訴人らの主位的請求がいずれも理由がないとされる場合)

(一) 庫造の遺産は別紙遺産目録記載の各土地及び建物であるところ、その価額を指数(被控訴人勇居住地3.3平方メートルを10とした場合の他の土地3.3平方メートルの評価割合)で表わすと、それぞれ同目録の価額指数欄に記載したとおりとなり、その総数は26276.905である(但し、各建物の価額については、これをその敷地の価額に含めて、その敷地の価額の指数とした。)。

なお、別紙遺産目録記載第三3(A)の土地の評価指数を8・5としたのは次の理由による。すなわち、右3(A)の土地は別紙図面中の縦横線を施した部分に、同(B)の土地は同図面中の斜線を施した部分にそれぞれ当たるものであり、両土地を一体として使用する前提で評価すれば、右3(A)の土地の指数も10とするのが相当であるが、本件公正証書遺言によれば、右3(A)の土地は控訴人幸治が、同(B)の土地は被控訴人三郎がそれぞれ取得するものとされているので、その結果、右3(A)の土地は、北側及び東側を被控訴人三郎の土地に、南側及び西側を第三者の土地に囲まれ、公道に至る通路のない袋地となる。したがつて、その評価にあたつては、右袋地としての減価をすべきであり、その減価割合は少なくみても15パーセントを下らない。それゆえ、右15パーセント減価をした8.5をもつて指数としたものである。

(二) 控訴人幸治及び同キクエは、右遺産につき各8分の1(評価指数にして3284.61)の遺留分を有する。

(三) ところが、本件公正証書遺言に指定された前記1(一)(イ)ないし(ニ)の各相続人の取得分によると、被控訴人勇の取得分は法定相続分をはるかに超過する反面、控訴人らの取得分はいずれも右遺留分以下となる(控訴人幸治の取得分指数は1689.29であり、同キクエの取得分指数は、その取得分の現地での所在が遺言書の記載から特定しがたいので計算できないが、前記遺留分指数を下まわることは明らかである。)ので、右遺言による遺産の配分(相続分の指定)は、控訴人らの遺留分を侵害するものというべきである。

(四) そこで、控訴人らは、それぞれの遺留分を保全するため、昭和43年4月2日、被控訴人勇に対して遺留分減殺請求権を行使した。右減殺の対象となる遺産として、控訴人らは、別紙遺産目録記載第五、第六、第七の各土地を選択し、その価額指数が控訴人らの遺留分指数の合計に達する限度まで減殺をする(その計算方法は別紙減殺計算書(一)記載のとおりである。)ので、その結果、同目録記載第五、第六の土地全部及び第七の土地の一部(持分)、すなわち別紙第三物件目録記載の各土地は、控訴人らの共有となるに至つた。(その共有持分割合は各自の減殺請求指数の割合による。)。

(五) しかるに、被控訴人らは、控訴人らの右共有権を争つている。

(六) よつて、控訴人らは、被控訴人らとの間において、右第三物件目録記載の各土地が控訴人らの共有であることの確認を求める。

3  控訴人キクエのみの予備的請求原因(控訴人らの主位的請求のうち控訴人幸治の土地所有権確認請求のみが理由ありとされる場合)

(一) 右の場合には、控訴人幸治は、遺留分の減殺を請求しないが、控訴人キクエについては、右2の(一)ないし(三)において述べたとおり同控訴人の遺留分の侵害があるので、前記遺留分減殺請求の主張をする。

(二) 右減殺の対象となる遺産として、控訴人キクエは、別紙遺産目録記載第五の1ないし4、第七の1及び第八の1の各土地を選択し、その価額指数が同控訴人の遺留分指数に達するまで減殺をする(その計算方法は別紙減殺計算表(二)記載のとおりである。)ので、その結果、同目録記載第五の1ないし4、第七の1の土地全部及び第八の1の土地の一部(持分)、すなわち別紙第四物件目録記載の各土地は控訴人キクエの所有となるに至つた。

(三) しかるに、被控訴人らは、控訴人キクエの右所有権を争つている。

(四) よつて、控訴人キクエは、被控訴人らとの間において、右第四物件目録記載の各土地が同控訴人の所有であることの確認を求める。

4  請求原因に対する被控訴人らの認否

(一) 主位的請求原因(一)の(1)及び(3)の各事実は認めるが、同(2)の事実は否認する。

(二) 同(二)の(1)及び(3)の各事実は認めるが、同(2)の事実は否認する。

(三) 予備的請求原因2の(一)の事実は、別紙遺産目録記載第三3(A)の土地の指数を8・5とする点を除き、すべて認める(遺産の価額を指数によつて評価すること、地上建物の価額をその敷地の価額に含めて指数を定めること及び右第三3(A)の土地以外の指数についても、争わない。)。右第三3(A)の土地の指数は、同(B)の土地と同じく10とすべきである。本件公正証書遺言の指定のとおり分割すれば、右第三3(A)の土地が袋地となることは認めるが、その場合には法律上囲繞地通行権が発生することでもあり、特に評価減をする必要はない。

(四) 同(二)の事実は認める。

(五) 同(三)及び(四)は争う。本件のような共同相続において減殺請求の対象となる遺産が数個ある場合に、減殺請求権を行使する一部の相続人に減殺対象物の選択を認めると、実質的に遺産分割が行われたのと同じくなり、右減殺請求の相手方たる他の相続人が遺産分割について家庭裁判所の審判を受ける権利を侵害するとともに、同相続人の利益を著しく害することになるので、右の選択は許されないと解すべきである。

(六) 同(五)の事実は認める。

(七) 予備的請求原因3の(一)ないし(四)についての認否は、予備的請求原因2についての認否と同様である。

第三証拠関係〔略〕

理由

第一被控訴人勇の控訴人幸治に対する本件建物所有権移転登記抹消登記手続請求について

一  本件建物がもと庫造の所有であつたこと、庫造が昭和42年5月24日死亡し、同人の二男である被控訴人勇、三男である控訴人幸治、四男である被控訴人三郎及び長女である控訴人キクエが相続したこと、本件建物につき、控訴人幸治が昭和41年9月7日庫造から贈与を受けたとして、横浜地方法務局戸塚出張所同日受付第25934号をもつてその所有権移転登記をしたが、庫造は、昭和42年4月19日、本件公正証書遺言により、右建物を被控訴人勇に取得させる旨指定したこと、以上の各事実は当事者間に争いがない。

二  被控訴人勇は、右遺言の指定により、同被控訴人が本件建物の単独所有権を取得したものであると主張するので、判断する。

成立に争いのない甲第4号証によれば、本件公正証書遺言には、「私は遺産分割の方法として相続人野崎キクエ(長女)、石井勇(長男)、石井幸治(弐男)、石井三郎(参男)の4名が遺産を次のとおり分割取得することを指定します」との文言に続いて、右4名各人の取得分として、前記事実摘示欄第二の二1(二)(1)(イ)ないし(ニ)記載のとおり指定されていることが認められ(右のとおり指定されていることについては当事者間に争いがない。)、右各人の取得分の価格を別紙遺産目録記載の価額指数(これについては同目録記載第三3(A)の土地の価額指数を除き当事者間に争いがない。)によつて計算すると、被控訴人勇の取得分が同被控訴人の法定相続分を超過することは明らかである。

ところで、被相続人が特定の相続財産を特定の共同相続人に取得させる旨の遺言をした場合には、特別の事情のない限り、これを右特定の財産の遺贈とみるべきではなく、遺産分割において右特定の財産を当該相続人に取得させるべきことを指示する遺産分割方法の指定(民法908条)とみるべきものであり、もし右特定の財産の価額が当該相続人の法定相続分を超えるときは、相続分の指定(同法902条)を併せ含む遺産分割方法の指定をしたものと解するのが相当である。本件公正証書遺言においても、前記のとおり、「遺産分割の方法として・・・・・・分割取得することを指定する」との文言があり、かつ、右特段の事情を認めるべき証拠もないことに徴すると、同遺言における前記各人の取得分の指定は、それぞれに対する遺贈ではなく、相続分の指定を併せ含む遺産分割方法の指定をしたものと認めるのが相当であり、これを動かすに足りる証拠はない。

そうであるとすれば、本件公正証書遺言が有効であるとしても、同遺言自体によつて当然に相続人名人がそれぞれの取得分につき単独所有権を取得しうるものではなく、法律の定める遺産分割の手続において右遺言の指定及び遺留分に関する規定に従つて遺産の分割が実施されることにより、初めて、相続開始の時に遡つて各人への権利帰属が具体化するものであるから、いまだ右遺産分割の手続が行われていないことが弁論の全趣旨から明らかな本件においては、本件建物はなお遺産共有の状態にあり、被控訴人勇の単独所有となるには至つていないものといわなければならない。そして、他に同被控訴人が同建物の単独所有権を取得したことを認めうる立証はない。

三  したがつて、本件建物につき被控訴人勇が単独所有権を有することを前提とする同被控訴人の控訴人幸治に対する所有権移転登記抹消登記手続請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないというべきである(なお、同被控訴人が本訴において本件建物の共同相続人としての共有持分に基づく更正登記手続の請求をするものでないことは、同被控訴人の主張するところである。)。

第二控訴人幸治の被控訴人らに対する本件土地所有確認請求について

一  本件土地がもと庫造の所有であつたことは、当事者間に争いがない。

二  控訴人幸治は、右土地を庫造から生前贈与を受けたと主張するので、検討する。

成立に争いのない甲第3号証及び第32号証の37、第一審被告石井フジヱの原審における本人尋問の結果及び当審における証言、原審及び当審における控訴人幸治(当審は第1、2回)及び被控訴人勇の各本人尋問の結果によれば、庫造方では、昭和41年当時、同人と控訴人幸治夫婦及び被控訴人勇らが同居していたところ、同年7月ころ被控訴人勇に結婚話がおこつたことから、控訴人幸治夫婦が別居することになり、庫造は、同控訴人に対して、本件土地に家を建てることを許したこと、そこで、同控訴人は、庫造の預金などを建築資金として、本件土地に木造瓦葺平家建居宅1棟(床面積99.37平方メートル)を建築し、同年12月ころまでに右建物に引越しをし、同42年3月11日同建物につき同控訴人名義で所有権保存登記をしたことが認められ、この事実によれば、控訴人幸治が庫造から、本件土地を自己の建物の敷地として使用することを許されたことは明らかである。第一審被告石井フジヱ及び控訴人幸治は、前掲証言及び本人尋問において、右建物の建築のために本件土地の所有権をも庫造から贈与されたものである旨供述するが、これを裏づける客観的証拠がないうえ、建物については右のとおり同控訴人の所有権取得の登記をしたのに、本件土地についてはその登記手続を行おうとした形跡がなく、また、前掲甲第4号証、成立に争いのない乙第25号証、同第27号証、同第28号証、原審における証人石井三郎(併合前)の証言、第一審被告石井フジヱ、控訴人幸治、被控訴人勇の各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、庫造方ではかねてから同人の財産をめぐつて控訴人幸治、被控訴人勇、同三郎らの間に対立があり、庫造の態度もはつきりしていなかつたと認められることなどをも考慮すれば、右各供述はたやすく採用することができないものといわざるをえない。他に同控訴人の前記主張を認めるに足りる証拠はない。

三  したがつて、控訴人幸治が庫造から本件土地の生前贈与を受けたことを理由として、その所有権確認を求める同控訴人の請求は失当である。

第三控訴人らの本件公正証書遺言無効確認請求及び右遺言執行の権利義務不存在確認請求について

一  庫造が昭和42年4月19日本件公正証書遺言をしたこと、同遺言には、控訴人ら、被控訴人勇及び同三郎の遺産取得分を前記のとおり指定するとともに、同遺言の執行者を被控訴人鹿島及び第一審被告石井與七とする旨の指定がなされていることは、当事者間に争いがない。

二  控訴人らは、右遺言は、被控訴人らが庫造に対し暴行、脅迫、威圧等を加えて真意を表明できないようにし、かつ、詐欺、強迫の手段を用いてなさしめたものであると主張するが、これにそう前掲第一審被告石井フジヱ及び控訴人幸治の各供述は、推測にすぎない部分が多く、原審における証人鹿島ヤス(併合前)、同石井與七の各証言及び前掲被控訴人勇の本人尋問の結果と対比して、たやすく採用することができない。そして、他に本件公正証書遺言に控訴人ら主張のような無効又は取消しの事由があることを認めるに足りる証拠はない。

三  したがつて、本件公正証書遺言が効力を有しないものであるとして、その無効確認及び被控訴人鹿島が右遺言執行の権利義務を有しないことの確認を求める控訴人らの請求は、理由がないというべきである。

第四控訴人らの遺留分減殺請求対象土地の所有(共有)権確認請求について

一  控訴人らの右請求は、本件公正証書遺言において被控訴人勇の取得分と指定された遺産につき、控訴人らが遺留分権利者として減殺請求をしたことにより、その減殺請求対象財産が控訴人らの所有(共有)に帰属したとの主張を前提とするものである。

ところで、右遺言においてなされた相続人各人の取得分の指定は、これを遺贈とみるべきでなく、相続分の指定を併せ含む遺産分割方法の指定とみるべきものであること、したがつて、遺産分割の手続において右指定及び遺留分に関する規定に従つて分割が行われない限りは、個々の相続財産が特定の相続人の単独所有となるものでないことは、前記第一で判示したとおりである。控訴人らの本件遺留分減殺請求により、右遺言でなされた相続分の指定は控訴人らの遺留分を侵害する限度において効力を失うことになるが(民法902条1項但書)、その効果は、控訴人ら及び被控訴人勇が全相続財産上に有する権利義務承継の割合が修正されるというにとどまるものであり、右減殺請求において控訴人らがその対象財産を特定したとしても、それによつて当該財産が当然に控訴人らの所有(共有)に帰することとなるものではない。右の修正された相続分に従つて相続財産の個別的帰属を具体化するためには、法律の定める遺産分割の手続を経ることが必要である。そうでなければ、遺産分割の手続によることなくして、実質上、控訴人らの選択するとおりに遺産分割が行われたのと同じ結果となるのであり、その不当なことはいうまでもない。

そうすると、右遺産分割の手続がいまだ行われていない本件においては、控訴人らの遺留分減殺請求により、別紙第三物件目録又は同第四物件目録記載の各土地が控訴人らの所有(共有)になつたものということはできず、他に控訴人らが右各土地の所有(共有)権を取得したことを認めうる立証はない。

二  したがつて、控訴人らの右所有(共有)権の取得を前提として、その確認を求める控訴人らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当というべきである。

第五結論

以上の次第で、被控訴人勇の請求及び控訴人らの各請求(当審における新請求を含む。)はいずれも棄却すべきであるから、控訴人らの本件控訴は、控訴人幸治において被控訴人勇の勝訴部分の取消しを求める限度で理由があり、その余は理由がない。

よつて、原判決中被控訴人勇の勝訴部分を取り消し、同被控訴人の請求を棄却し、控訴人幸治のその余の控訴及び当審における新請求並びに控訴人キクエの控訴をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法96条、89条、92条、93条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中島恒 佐藤繁 塩谷雄)

別紙<省略>

〔参照〕原審(横浜地 昭42(ワ)647号、1510号 昭51.10.20判決)

主文

〔昭和42年(ワ)第647号事件について〕

被告石井幸治は原告に対し、別紙第一目録記載の建物につき、昭和41年9月7日横浜地方法務局戸塚出張所受付第25934号の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は5分し、その4を原告の、その余を被告らの負担とする。

〔昭和42年(ワ)第1、510号事件について〕

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一求める裁判

一 昭和42年(ワ)第647号事件

1 原告

(一) 被告石井幸治は原告に対し、別紙第一目録記載の建物(本件建物という)につき昭和41年9月7日横浜地方法務局戸塚出張所受付第25934号の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

(二) 被告両名は原告に対して各自金6,000,000円およびこれに対する昭和42年5月28日以降完済まで年5分の割合による金員を支払え。

(三) 訴訟費用は被告らの負担とする。

(四) 第二、三項につき仮執行の宣言。

2 被告ら

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

二 昭和42年(ワ)第1、510号事件

1 原告ら

(一) 訴外石井庫造が昭和42年4月19日横浜地方法務局所属公証人田中盈作成昭和42年第1、437号遺言公正証書をもつてなした遺言は無効であることを確認する。

(二) 被告鹿島ヤス、同石井與七は、右遺言公正証書に基づく遺言執行の権利および義務の存在しないことを確認する。

(三) 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

〔予備的請求〕

(一) 別紙第二目録記載の不動産は原告らの共有であることを確認する。

(二) 別紙第三目録記載の不動産は原告野崎キクエが2分の1の持分を有することを確認する。

(三) 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

2 被告ら

(一) 原告らの請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

〔予備的請求〕

(一) 原告らの請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二主張及び答弁

一 昭和42年(ワ)第647号事件の請求原因

1 訴外亡石井庫造(庫造という)は、膵腫瘍加療のため昭和41年5月12日戸塚共立第二病院に入院した。その際、同居していた三男の被告石井幸治(幸治という)と同人の妻被告石井フジヱ(フジヱという)の両名に対して、庫造所有の不動産の登記済権利証、豊田農業協同組合の普通預金通帳、駿河銀行の普通預金通帳、印鑑などを預け、庫造の承諾なくして、財産の処分、預金の引き出しなどは絶対にしないように厳重に言い渡しておいた。

2 ところが、幸治とフジヱは庫造の死期が近いと判断して、庫造に無断で次の所為をした。

(一) 昭和41年9月7日本件建物を庫造から贈与されたと称して、横浜地方法務局戸塚出張所に、その旨を原因とする同日受付第25934号の所有権移転登記手続を経由した。

(二) 駿河銀行から昭和41年6月22日金1,000,000円、同年9月14日金2,000,000円、同年同月19日金100,000円、同年10月15日金500,000円、同年10月21日金500,000円、昭和42年1月31日金60,000円を、豊田農業協同組合から昭和41年7月18日金100,000円、同年11月2日金400,000円、同年12月22日金300,000円、昭和42年1月9日金500,000円をほしいままに引き出してこれを横領した。

3 昭和42年5月24日庫造が死亡したので、二男である原告石井勇(勇という)が本件建物と同人の右預金債権とを相続した。

4 よつて勇は、幸治とフジヱに対して、前記移転登記の抹消と横領行為による金6,000,000円の損害賠償を請求するため本訴請求に及んだものである。

5 なお、幸治、フジヱの主張と抗弁事実はいずれも争う旨付陳した。

二 昭和42年(ワ)第647号事件の答弁、抗弁

1 請求原因事実中、登記済権利証、預金通帳、印鑑等を預つた趣旨、預金通帳から払戻した金員を横領したとの点、勇が本件建物の所有権と右預金債権を相続したことは争うが、その余の事実はすべて認める。

2 庫造は、その長男成が出生後間もなく死亡し、二男勇には精神的疾患があるため、三男幸治がフジヱと婚姻してからは、幸治を自分の跡継ぎとして老後の面倒を見てもらうつもりであつた。昭和41年5月13日庫造は入院するに際して、フジヱに対して登記済権利証、預金通帳、印鑑等を預け、病院の支払、勇、幸治、フジヱの生活費一切の支払を託した。又庫造の入院中勇が結婚したので、庫造は、幸治とフジヱの世話になりたいということで、預金をおろして幸治に家屋を新築してよいと許可し、更に昭和41年9月7日本件建物を幸治に贈与した。そこで、幸治、フジヱは預金を引き出して諸税公課に金60,062円、庫造の入院費用に金463,810円、庫造名義の貸家建築費用に約金1,500,000円、幸治の住宅新築費用に金3,000,000円その他生活費にあてた。ついで、庫造は同年同月20日公正証書による遺言を作成し、前記駿河銀行、豊田農業協同組合に対する預金の全部を幸治に遺贈したものである。

三 昭和42年(ワ)第1,510号事件の請求原因

1 庫造に対して、原告幸治は三男、同野崎キクエ(キクエという)は長女、被告勇は二男、同石井三郎(三郎という)は四男、同鹿島ヤス(ヤスという)は妹、同石井與七(與七という)は弟である。そして、幸治、キクエ、勇、三郎の4名は庫造の相続人である。

2 庫造は、昭和42年5月24日死亡したが、同人には同年4月19日横浜地方法務局所属公証人田中盈作成同年第1,437号遺言公正証書をもつてなした遺言が存在する。

3 右遺言公正証書には、相続人らが次のとおり遺産を分割取得することを指定すると記載されている。

(一) キクエの分割取得分

横浜市戸塚区下倉田町花立1、868番

一 畑766.94平方米(7畝22歩)のうち西側の165.28平方米(50坪)

(二) 幸治の分割取得分

横浜市戸塚区下倉田町雪下1,693番

一 田68平方米(2畝05歩外畦畔3歩)のうち別紙図面中の縦横線を施した部分

一 右土地の上にある木造瓦葺平家建居宅1棟床面積105.78平方米(32坪)

(三) 三郎の分割取得分

(1) 幸治取得分の部に記載の田68平方米のうち別紙図面中の斜線を施した部分

(2) 横浜市戸塚区下倉田町字原1,501番

1 田333.88平方米(3畝11歩)

(四) 勇の分割取得分

キクエ、幸治、三郎の取得分を除く全遺産。

なお、本件建物は現在幸治の所有名義となつているが、真実は私庫造の所有であつて、勇の取得分に含まれるものとします。

4 右遺言公正証書には、その他遺言執行者としてヤス、與七が指定されている。

5 しかし、右遺言は庫造の真意によるものでなく無効である。

(一) 庫造は、戸塚共立第二病院において、昭和41年9月24日横浜地方法務局所属公証人小森庚子作成昭和41年第4,049号遺言公正証書をもつて、次の内容の遺言をなした。

(1) 勇に対し、横浜市戸塚区下倉田町1、592番1、宅地817.35平方米外8筆、及び、建物1棟を遺増する。

(2) 幸治に対し別紙第二目録記載の土地、及び、預金債権を遺贈する。

(3) 三郎、キクエに対し、別紙第三目録記載の土地を遺贈する。

(二) 庫造が右病院に入院中、勇が結婚したので、幸治とフジヱは庫造の預金でもつて家を新築してもらつて、勇と別居することになつた。庫造は、将来幸治の世話に、なりたいと希望し、新築の家屋を見るため、昭和42年2月11日から数日間退院することにした。

(三) ところが、勇、三郎、ヤス、興七らは、右退院予定日の前日無理矢理に庫造を退院させ、勇の家にかくまい、暴行、脅迫の手段で庫造と幸治、フジヱが会うのを妨げ、庫造に幸治のいわれのない悪口を吹き込んだ。そして、昭和42年4月19日前記病院において、庫造に威圧を加え、自由な意思を表明できないほどにおそれさせたうえ、第2、3項記載の遺言を作成させた。

(四) 以上のとおり、庫造の昭和42年4月19日付遺言は、庫造の真意によるものでないことが明らかであり、右遺言は無効である。

従つて、ヤス、與七には右遺言公正証書に基づく遺言執行の権利及び義務が存在しないこと当然のことである。

6 仮に右遺言公正証書が無効でないとしても、幸治、キクエは庫造の遺産についてそれぞれ8分の1の遺留分を有しているので、昭和43年4月2日同日付の準備書面によつて勇、三郎に対して、別紙第二目録記載の不動産につきその遺留分によつてこれを減殺し、更に、キクエは別紙第三目録記載の不動産について持分2分の1を減殺した。

7 したがつて、別紙第二目録記載の不動産は幸治とキクエの共有であり、同第三目録記載の不動産についてはキクエが2分の1の持分を有するのでその旨の確認を求める。

四 昭和42年(ワ)第1、510号事件の答弁

前項の請求原因事実中、1ないし4項、6項のうち幸治、キクエが庫造の遺産についてそれぞれ8分の1の遺留分を有していることは認めるが、その余はすべて争う。

第三証拠〔略〕

理由

〔昭和42年(ワ)第647号事件について〕

一 庫造が、昭和41年5月12日戸塚共立第二病院に入院するにあたつて、幸治とフジヱに対して、本件建物の登記済権利証、預金通帳、印鑑等を預けたこと、幸治が本件建物について所有権移転登記手続を経由したこと、又フジヱが、原告勇の主張するとおり預金を引き出したことは当事者間に争いがない。

二 本件建物を贈与された旨の抗弁

幸治とフジヱは、昭和41年9月7日庫造が幸治に本件建物を贈与した旨抗弁するのでこの点について検討する。

1 証人近藤功、同金子清治の各証言、被告幸治、同フジヱの本人尋問の各結果中、この点に関する各供述は、証人鹿島ヤスの証言、甲第3号証の記載にてらして信用することができない。

2 被告フジヱの本人尋問の結果真正に成立したものと認められる乙第21号証の2(昭和41年8月26日付庫造のフジヱに対する印鑑証明書交付申請のための委任状)は、本件建物の所有権移転登記を目的として交付したと認められる証拠がないから、これを右認定の資料とすることはできない。

3 その他、この抗弁を立証するに足る証拠もないので採用することができない。

三 預金引出の許可を受けた旨の抗弁

1 成立に争いのない甲第3号証、被告幸治、同フジヱの各本人尋問の結果によると、庫造が昭和41年5月12日戸塚共立第二病院に入院するにあたつて、フジヱに預金通帳並に現金256,000円をあずけ、治療費、税金、家計費等一切の支払を依頼し、右現金で不足の部分は預金から引き出して支払うよう指示した。又、入院後の同年5月中に、庫造が新築していた貸家(1棟建2軒長屋)の建築代金を、フジヱに預金から引き出して支払うよう依頼したこと、更に、幸治が同年6月から12月にかけて新築した幸治所有の家屋について、庫造がその頃預金を引き出してこれが建築費を支払つてもよいと許可したことが認められる。右認定に反する証人石井三郎、同鹿島ヤス、同石井與七の各証言は信用できないしその他これを覆すに足る証拠もない。

2 右の認定事実によると、この点に関する幸治、フジヱの抗弁は理由があるので、勇の横領行為を原因とする本訴損害賠償請求は理由がない。

四 そうすると、原告勇の本訴請求は、本件建物の移転登記の抹消登記を求める限度において正当であるから、これを認容することとし、その余は失当としてこれを棄却する。訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条、第92条、第93条を適用し、仮執行の宣言は付さないこととして、主文のとおり判決する。

〔昭和42年(ワ)第1、510号事件について〕

一 昭和42年4月19日横浜地方法務局所属公証人田中盈作成同年第1、437号遺言公正証書が存在することは当事者間に争いがない。

二 幸治、キクエは、右遺言公正証書は庫造の真意に基づくものでないから無効である旨抗弁するが、これを立証する証拠はなにもない。却つて前掲甲第3号証、証人石井與七の証言によると、庫造の真意にもとづく遺言であると認められるので、この抗弁は採用できない。従つて、幸治、キクエの主張する遺言の無効、ヤス、與七に遺言執行の権利義務の存在しないことの確認を求める本訴請求はいずれも理由がないので棄却することとする。

三 次に遺留分減殺の予備的請求について判断する。

1 幸治、キクエが、庫造の遺産についてそれぞれ8分の1の遺留分を有していることは当事者間に争いがない。

2 遺留分減殺請求権を行使する場合、減殺請求権は、民法第1,029条、第1,030条に則り、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産の価額を算定し、その価額に対する割合をもつて示すべきであるから、右の財産の価額にもとづかず、単に、被相続人の財産の何分の一という割合を示しただけでは遺留分を保全するに必要な限度で減殺を請求したことにはならない。

また、減殺請求権者に減殺すべき遺産の目的物を、任意に選定する権利を認めることはできない。何となれば、選択権者と返還義務者とが、ともに共同相続人である場合には、遺産分割と遺留分とを切りはなして処理できない場合が多いので、これが選定権を認めると、手続面上からは共同相続人の遺産分割の協議をする権利、家庭裁判所において遺産分割の調停又は審判を受ける権利を侵害することになるし、実質面上からは時に、受遺者の利益を著しく害し遺贈者の意思に反する結果が生起しかねないからである。

3 これを本件についてみるに、幸治とキクエの減殺請求は、遺留分の割合を示しただけで財産の価額に対する割合を示していないので、適法なものとはいえないし、また、選定権限を有しないのに別紙第二、三目録記載の不動産を選定して請求するものであるから、到底これを認めることはできない。

4 そうすると、原告幸治、同キクエの本訴請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第89条、第93条を適用し、主文のとおり判決する。

別紙<省略>

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